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今週の朝日歌壇から(5月5日掲載・其の?)

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[高野公彦選]

(福島市・美原凍子)
〇  白鳥去りツバメ飛び来しみちのくの春天にある銀の子午線

(町田市・高梨守道)
〇  ふるさとを離れしわれの転居地を母の遺しし住所録に数ふ

(熱海市・山口智恵子)
〇  泣くことも蹴飛ばすことも脱走も通過点なり三歳の春

(可児市・前川泰信)
〇  拾い上げ戻しやりたる受験生の鉛筆はいと短かりけり

(沖縄県・和田静子)
〇  やんばるの浄き流れに鯉幟連ねてこの地区基地あらしめず

(福山市・武暁)
〇  バーボンを今宵紅茶につぎ足して酒好きだった母の歳越ゆ

(富山市・松田由紀子)
〇  もそもそと春休みから抜け出してピリリと子らは制服を着る

(東京都・上田国博)
〇  鶴の湯の廃業決まり明日よりは東京の富士またひとつ減る

(久喜市・白石由紀)
〇  休み時間子にとらはれしカナヘビは筆箱の中で九九を聞きおり

(沼津市・石川義倫)
〇  捕獲して山奥深く戻せしにまた里へ来ぬひもじきか熊

今週の朝日歌壇から(5月5日掲載・其の?)

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[永田和宏選]

(厚木市・櫻田稔)
〇  円周率を三でもいいとするやうなわけにもゆくまい憲法解釈

 学習指導要領改訂前の我が国の数学・算数教育を批判し、安倍内閣の憲法解釈変更方針を批判しているような作品ではある。
 作中の「円周率を三でもいいとする」とは、「大雑把に捉える」という意味でありましょうが、安倍内閣の「憲法解釈」は「大雑把な解釈」と言うよりも、「ご都合主義的かつ恣意的かつ亡国的な憲法解釈」と言うべきである。
 私は、今朝の朝日新聞に掲載された「安保法制懇」の「報告書」の全文を熟読しましたが、その良し悪しはともかくとして、現行憲法九条の基本精神は、「我が国は何が何でも戦争はしない」というところにありましたが、「安保法制懇」の「報告書」に拠ると、「我が国は時と場合によっては、武器を持って戦うことも辞さない。同盟国アメリカの為には一旗も二旗も脱ごう」という方向に変えようとしてように思われます。
 〔返〕  「円周率・三」と習った子供らがもうすぐなるぞ十八歳に


(東京都・上田国博)
〇  鶴の湯の廃業決まり明日よりは東京の富士またひとつ減る

 銭湯のタイル画の定番は「美保の松原から望む富士山」であるが、掲歌の意は「鶴の湯の廃業が決まり」「東京の富士またひとつ減る」といったところでありましょう。
 ところで、東京二十三区内で、私の知っている「鶴の湯」と言えば、江戸川区船堀に在る「鶴の湯」であるが、あの「スーパー銭湯・鶴の湯」が何かの都合で「廃業」を決めたのでありましょうか?
 この私に何一つの相談も無しに!
 〔返〕  鶴の湯と言えば乳頭・孫六に黒湯・大釡・蟹場・妙乃湯


(大和高田市・森村貴和子)
〇  何もすることなくて背をなでているそれでもまだある母との時間

 血を分けた娘の手で以って背中を撫でるだけで充分すぎるくらい充分でありましょう。
 それ以上の親孝行はありません。
 〔返〕  血を分けた娘のさする背中には米寿の祝いの赤ちゃんちゃんこ


(東京都・根本孝治)
〇  文句言う相手が居るだけいいじゃない少女はぼそっとわれに言うなり

 掲歌中の「娘」さんは、何かの都合に因って、歳若くして早くも独身生活を覚悟しているのでありましょうか?
 四句目中の副詞「ぼそっと」が、作中の「娘」さんの性格とか容貌などをそれと無く示しているようで、なかなか効果的な表現である。
 〔返〕  娘さん諦めちゃうのはまだ早い隣りの国は整形大国


(坂戸市・山崎波浪)
〇  四時半に「夕やけ小やけ」が鳴る街のどこかに私隠れています

 詠い出し五音の「四時半は」は、正確に言うと「午後四時二十六分に」である。
 また、二句目中の「夕やけ小やけ」は、正確に記すと「夕焼小焼」であり、今更説明するするまでもなく、1919年(大正8年)に中村雨虹が発表した詞に、草川信が1923年(大正12年)に曲をつけた童謡のタイトルである。
 ところで、作詞者の中村雨虹は、当時の東京府南多摩郡恩方村(現在の東京都八王子市上恩方町)出身、また、作曲者の草川信は、当時の長野県埴科郡松代町(現・長野市松代町)出身。
 と言うことになると、埼玉県坂戸市は、作詞者の中村雨虹とも作曲者の草川信とも、縁もゆかりも無いのに、毎年、十月一月から三月三十一日まで、あの「夕焼小焼」のメロディを流し続けているのである。
 それにしても山崎波浪さん、一体全体あなたは何方に向かって「四時半に『夕やけ小やけ』が鳴る街のどこかに私隠れています」などと、不正確な情報を流そうとしてのですか?
 あなたが年若き女性ならまだしも、お名前から察するとかなり年配の男性のように思われますが?
 〔返〕  四時半になったら家に帰れよと四分前の夕焼け小焼け


(岐阜市・後藤進)
〇  研究を諦めきれぬ吾子ありて水槽にまだカワヨシノボリ

 掲歌中の「カワヨシノボリ」とは、「ハゼ科ハゼ亜科ヨシノボリ属の我が国原産の淡水魚であり、河川の上中流域の比較的水のきれいな川に生息していて、命名の由来は「比較的に水の澄み、流れのある河川に棲息するから」とのことである。
 掲歌の作者・後藤進のご子息さまは、一文の得にもならないのに、あの「カワヨシノボリ」の「研究を諦めきれぬ」のでありましょうか?
 だとしたら、独身生活を覚悟しなければなりませんね。
 あのぬーぼーとした顔の「カワヨシノボリ」から連想されるのは、後藤進さんの「吾子」さんの世間ずれしていないご容貌でありましょう。
 〔返〕  コピペなど何処吹く風の顔をしてカワヨシノボリの生態研究


(伊勢市・中西余吉)
〇  ごめんなさい少しけちって悔いてます仏のあなたに供える最中

 「ごめんなさい少しけちって悔いてます」とありますが、掲歌の作者・中西余吉さんは、あの「最中」の半分をご自身で食べ、残り半分を仏前にお供えになったのでありましょうか?
 〔返〕  罰当たり!半分千切って食べたあと残り半分供えるヤツは!


(松阪市・こやまはつみ)
〇  あなたへの手紙が長くなりそうで縁側に出て先ず爪を摘む

 三重県松阪市では「(爪を)摘む」という言い方をするのでありましょうか?
 〔返〕  君宛ての脅迫状を書くために先ず縁側に出て爪を砥ぐ


(塩釜市・佐藤龍二)
〇  それぞれのその日の派遣先見ればみな災害地ホワイトボード

 「『ホワイトボード』を『見れば』わかる通り、日雇い派遣従業員『それぞれのその日の派遣先』は『みな災害地』である」といった歌意でありましょうが、末尾に取って付けたように「ホワイトボード」と置くなど、あまりにもお粗末な作品である。
 「東日本大震災の被災地を題材にすれば入選するだろう」といった安易な気持ちがありありと見られる作品である。
 〔返〕  被災地が在るから成り立つ派遣業被災者泣かせの中間搾取


(熊本市・近藤史紀)
〇  卒業す電車通学今日からは君のためだけ降りるこの駅

 歌意不明!
 近藤史紀さんよ、手抜きをしてはいけません。
 「今日からは君のためだけ降りるこの駅」とありますが、毎夕、退社後に「君」の住む町の「駅」に途中下車するのでありましょうか?
 だとしたら、会社勤めは半年ももちませんよ!
 〔返〕  君の住むこの街の駅を振り捨てて通勤電車はひたすら急ぐ

今週の朝日歌壇から(5月19日掲載・其の?)

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[高野公彦選]

(南相馬市・池田実)
〇  除染する熊手の上に降る花弁愛でられず散る浪江の桜

(さいたま市・箱石敏子)
〇  白つつじふふふふふうふ溢れ出で見知らぬまちを訪ねたくなる  

(東京都・上田結香)
〇  半分このサンドイッチがおいしくて今年最初のアイスコーヒー

(東かがわ市・桑島正樹)
〇  思ひ出し笑ひの如く風車風行き過ぎてより廻り初む

(松山市・二神貴美恵)
〇  咲き誇りはげしく舞ひて散りしのちゆるぎなき妊婦のごとき葉桜

(群馬県・新井正治)
〇  風月もグローバル化し北米の月出帯食テレビに映る

(熊本市・横手まゆみ)
〇  ゴツゴツといかにも育ち損ないの菊芋素揚げて塩振れば「乙」

(福生市・斉藤千秋)
〇  幸せは小さきが良い夫婦なり散歩の途中芋のコロッケ

(富山市・松田梨子)
〇  新しい私に会ってみたくなり入部を決めた自然科学部

(富山市・松田わこ)
〇  名前順背の高さ順に並ぶたび友達ができるうれしい4月

今週の朝日歌壇から(5月19日掲載・其の?)

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[永田和宏選]

(さいたま市・田中ひさし)
〇  「しょうがない」は日本人の悪いくせ九条原発秘密保護法

(新発田市・和田桃)
〇  言葉替えどんどん浸食されるのか誇りに思いいし平和憲法

(千葉県・野村桂子)
〇  知り合いについ話しちゃう弱いんだ夫の意識もどらないこと

(京田辺市・藤田佳予子)
〇  すっきりと片付いた部屋の味気無さ散らかすあなたがいないさみしさ

(水戸市・檜山佳与子)
〇  棒になど振つてゐないよお父さんあなたに一日付き添つた日は

(川越市・小野長辰)
〇  池の辺は冬眠をする土がない成田山の亀早春泳ぐ

(東かがわ市・桑島正樹)
〇  思ひ出し笑ひの如く風車風行き過ぎてより廻り初む

(福島市・美原凍子)
〇  麦飯にとろろをかけてふるさとはあたたかかったかい 弟よ

(呉市・天野弘士)
〇  「鬱」という濃霧の中に紛れ込む妻よ出口を共に探そう

(東京都・宮野隆一郎)
〇  車椅子のきみの春愁晴れるまでけふは行きたきところまで行く

今週の朝日歌壇から(5月19日掲載・其の?)

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[馬場あき子選]

(福島市・美原凍子)
〇  全村避難の村の桜はさみしかろしいんと咲いてしいんと散って

(石川県・瀧上裕幸)
〇  変わりゆく海を見つめし眼を開きダイオウイカは横たわりおり

(東京都・大村森美)
〇  被災地の廃業ホテルの濁り池モリアオガエルの卵が白い

(長岡京市・寺嶋三郎)
〇  蜜蜂は我が家の巣箱入らずに隣の梅の木に固まりぬ

(東京都・野上卓)
〇  日本人の顔は変わりぬ喜多院の五百羅漢に仲間はおらず

(富山市・松田梨子)
〇  新しい私に会ってみたくなり入部を決めた自然科学部

(福島市・武藤恒雄)
〇  人生を二度生きてると留学の教え子の文字跳び跳ねている

(帯広市・小矢みゆき)
〇  球根のごろりと土にころがりて寒そうに春目覚めておりぬ

(舞鶴市・吉富憲治)
〇  昆虫のごとコンビニの灯に集い来て車座をなすこれも青春

(佐世保市・近藤福代)
〇  百一歳の母が生きてる不思議さを一緒にいる時だけは思わず

今週の朝日歌壇から(5月19日掲載・其の?)

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[佐佐木幸綱選]

(南相馬市・池田実)
〇  どれくらい除染すれば人は帰るだろう自問を胸に刈る浪江の草花

(大和郡山市・四方護)
〇  人間の数より若干少なめの鹿渡りゆくスクランブル信号

(西条市・村上敏之)
〇  徴兵のなき世を憶ひ感謝せよと次男の父は次男の吾に言ふ

(東京都・豊英二)
〇  百体の木彫りの仏像一体ずつ横に寝かせて閉館の五時

(富山市・松田梨子)
〇  新しい私に会ってみたくなり入部を決めた自然科学部

(東金市・山元寒苦)
〇  ひんがしに朝日のぼれば田の二枚かけて水面に電柱の影

(御所市・内田正俊)
〇  ビルのクレーンアーム振る下春闘の雨に気勢を上げいるらしも

(横須賀市・梅田悦子)
〇  キビタキの胃に筋肉に放射能のシミ映し出す写真哀しき

(名古屋市・中村桃子)
〇  こんな時ばあちゃんがいてくれたなら思い出せない野の花の名まえ

(弘前市・神滋子)
〇  「ノンアルにして」と勧める娘等に「あるアルがいい」と愚かなる母

今週の朝日俳壇から(5月19日掲載・其の?)

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[大串章選]

(別府市・梅木兜士彌)
〇  島国に風の名あまた五月来し

(オランダ・モーレンカンプふゆこ)
〇  菜の花や古城の牢は深き穴

(前橋市・荻原葉月)
〇  億万の蚕を連れて母逝けり

(名古屋市・中野ひろみ)
〇  城に過去あり新緑に未来あり  

(合志市・坂田美代子)
〇  はるかより人呼んでゐる桐の花

(八王子市・大串若竹)
〇  馬柵越えて夏蝶馬に逢ひにゆく

(米子市・中村襄介)
〇  村廃れ人恋しさに亀の鳴く

(秋田市・松井憲一)
〇  夏隣り除染の山の影長し

(東京都・おがわまなぶ)
〇  衣更昭和の皺の現るる

(静岡市・松村史基)
〇  拡声器よりメーデーの動き出す

今週の朝日俳壇から(5月19日掲載・其の?)

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[稲畑汀子選]

(東京都・田治紫)
〇  葉桜に絹の雨散る目黒川

(大阪市・山田天)
〇  霞とは富士を隠してしまふほど

(長野市・縣展子)
〇  一切を尽して花の散りにけり

(寝屋川市・岡西恵美子)
〇  渡り石勿忘草の中にあり

(相模原市・石田わたる)
〇  気がつけば湖の色まで万緑に

(豊中市・堀江信彦)
〇  藤浪の少し遅れて香りけり

(神戸市・池田雅一)
〇  満開の桜に月の静心

(高松市・桑内繭)
〇  落花てふ音なき音を積む大地

(富津市・三枝かずを)
〇  春愁をまとひし影を草に置く

(宝塚市・松井由紀子)
〇  落選の俳句供養や木下闇

今週の朝日俳壇から(5月19日掲載・其の?)

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[金子兜太選]

(三郷市・岡崎正宏)
〇  大統領花冷のごと去りにけり

(熊谷市・時田幻椏)
〇  囀りの必死を聴けり吾もまた

(神戸市・森木道典)
〇  日は日なり我は我なり花は葉に

(東京都・宮野隆一郎)
〇  職辞して手ぶらで蝶を追ひゆけり

(川越市・渡邉隆)
〇  切絵師は紙を動かし鳥雲に

(三重県南伊勢町・西村栄夫)
〇  燈涼し茶粥を啜りひびかする

(塩釜市・佐藤龍二)
〇  夏だから私も走る能登半島

(埼玉県宮代町・酒井忠正)
〇  島の子に蛇は友垣戯れあへり

(長岡京市・寺嶋三郎)
〇  福島に帰る帰れぬ櫻かな

(山梨県市川三郷町・笠井彰)
〇  強権の突走る憲法記念の日

今週の朝日俳壇から(5月19日掲載・其の?)

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[長谷川櫂選]

(東京都・池田合志)
〇  灼熱の大地に眠る友の墓

(うきは市・江藤哲男)
〇  弟となる兄となる双幟

(調布市・滝澤達郎)
〇  江戸つ子ぢやございませんが初鰹

(八王子市・中野公一)
〇  日向にも日陰にも咲き著莪の花

(渋川市・山本素竹)
〇  花の下なにを注ぐのも紙コップ  

(東京都・矢野美与子)
〇  全句集春よ春よとめくるかな

(塩尻市・古厩林生)
〇  風船の探してをりぬ風の道

(岡山市・三好泥子)
〇  文楽座出て法善寺春惜しむ

(愛西市・小川弘)
〇  図書館を出て藤の道帰りけり

(東京都・徳竹邦夫)
〇  いろいろな厨の音や春惜しむ

今週の朝日歌壇から(5月26日掲載・其の?)

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[佐佐木幸綱選]

(厚木市・藤本信雄)
〇  物言へば弾き出さるがの雰囲気に集団的自衛権に拍車のかかる

(網走市・寺澤和彦)
〇  湯気の立つホタテの殻が積み込まれ朝のダンプにカモメ群がる

(下野市・石田信二)
〇  田植え待つ水田にガマの声高く筑波の峰は緑きらめく  

(札幌市・藤林正則)
〇  流氷の漂う根室海峡の上空を渡る真雁の群れは

(さくら市・大場公史)
〇  燕飛ぶ隠密・幽霊・蜃気楼は現れません秘密保護法

(前橋市・荻原葉月)
〇  「限定」は「拡大」へ続く恐ろしき道子孫の世想ふ秘密保護法

(奈良市・直木孝二郎)
〇  四人の子つぎつぎ戦死せしという無惨なるかないくさというもの

(八尾市・水野一也)
〇  地元でのコンサートにてとびきりの小節をきかす天童よしみ

(横浜市・飯島幹也)
〇  認知症の母蒲公英の絮を吹く静かなる身に朝日浴びつつ

(東金市・山本寒苦)
〇  原発が点で描かるる地図上に念のためなる同心の円

今週の朝日歌壇から(5月26日掲載・其の?)

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[高野公彦選]

(西条市・村上敏之)
〇  九、十一、十三、十四、二十一と二十五条は暗誦できます

(奈良市・直木孝次郎)
〇  わが伯母は戦死の公報さしおきてわが子孤島に住まうと思いき

(福岡市・宮原ますみ)
〇  秋月の風にたゆたひ藤の花二尺三尺音なきしらべ

(南相馬市・池田実)
〇  除染終え飯場へ帰る車窓にはガレキ踏みしめ睨む猪見ゆ

(生駒市・島田征二)
〇  飲み帰り妻と子眠る真夜中の窓に映りし我とまた飲む

(鎌倉市・小島陽子)
〇  植物のふた葉がそっと開くようなまだ朝早い静かさが好き

(名古屋市・諏訪兼位)
〇  河馬と鯨体毛つるり 水に棲み子育てもまた水中なれば

(長野県・沓掛喜久男)
〇  祖父母、父母同じ座敷に死に給ふ吾は所をいづこに得むや

(松阪市・こやまはつみ)
〇  山ひとつ切り拓かれて太陽光発電所建つ木は逃げられぬ

(山形県・佐藤幹夫)
〇  まだあると辛夷ひろぐるわかみどり計りしれざるこの樹液圧

今週の朝日俳壇から(5月26日掲載・其の?・)

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[稲畑汀子選]

(岩倉市・村瀬みさを)
〇  牡丹の咲く待つ長さ散る早さ

(芦屋市・酒井湧水)
〇  母の日や母に会はざる年重ね

(北見市・藤瀬正美)
〇  紫と白と同じ香ライラック

(小樽市・伊藤玉枝)
〇  まだ風の尖る北海道五月

(横浜市・松永朔風)
〇  新緑を森林浴として愉し

(鹿児島市・青野迦葉)
〇  毎日が弾ける五月来たりけり

(柳川市・木下万沙羅)
〇  開け放つ二階は桟敷舟芝居

(神戸市・涌羅由美)
〇  青麦や風まで青くしてをりぬ

(島根県邑南町・服部康人)
〇  城山をさらに高めし樟若葉

(坂出市・緒方こずえ)
〇  青空となりて際立ち桐の花

今週の朝日俳壇から(5月26日掲載・其の?)

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[金子兜太選]

(洲本市・高田菲路)
〇  金婚と言ふ移ろひや花は葉に

(養父市・足立威宏)
〇  竹秋の丁寧に拭き孫の尻

(群馬県東吾妻町・酒井大岳)
〇  押し寄せて来る一族や蕨摘む

(北海道別海町)
〇  酪農に生きる頑固や雲の峰

(熊本市・寺崎久美子)
〇  夏の月海のこぼれぬ不思議かな

(みよし市・稲垣長)
〇  さびしらの血をひくわれや走り梅雨

(石川県能登町・瀧上裕幸)
〇  虎杖を噛みて廃校後にせり

(京都市・山口秋野)
〇  流行語嫌いな私亀鳴けり

(さいたま市・大木紺青)
〇  生きている八十八夜の水飲み干す

(秦野市・熊坂淑)
〇  風体は選者のごとし五月闇

今週の朝日俳壇から(5月26日掲載・其の?)

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[長谷川櫂選]

(燕市・高橋芦人)
〇  掛けられし袋の中に桃の夢

(秦野市・熊坂淑)
〇  矢車のときには哭くよ恋の風

(横浜市・込宮正一)
〇  夏めいて今日のこの日のかをりかな

(相模原市・阿久津シメノ)
〇  花疲れたがを外して皆横臥

(松江市・三方元)
〇  爛漫の花は裸の女身仏

(日立市・國分貴博)
〇  さつと来てさつとやむ雨初鰹

(金沢市・今村征一)
〇  もつともつとやんちやに育て菖蒲の湯

(坂戸市・浅野安司)
〇  日本一でかい湖夕霞

(大阪市・森田幸夫)
〇  くびれたる胴にあらねど踊子草

(横浜市・神野志季三江)
〇  幸せになろうとしてた春だった

今週の朝日俳壇から(5月26日掲載・其の?)

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[大串章選]

(福岡市・松尾康乃)
〇  黒揚羽麟の耳に囁ける

(香美市・甲藤卓雄)
〇  母が仕舞ふ泳ぎ疲れし鯉のぼり

(合志市・坂田美代子)
〇  一瀑の音一山をゆるがしぬ

(京都市・山田南京豆)
〇  花衣麻痺の半身屹立す

(鹿児島市・青野迦葉)
〇  春泥の靴に始まるサスペンス

(多摩市・吉野佳一)
〇  初鰹速達のごと来たりけり

(秋田市・松井憲一)
〇  万緑の中や原子炉発電所

(東京都・田中隆)
〇  春銀河魚は遡上始めけり

(東京都・望月喜久代)
〇  パンジーに風のさざなみ切れ目なし

(東京都・大木瞳)
〇  万緑に日日吞まれゆく村一つ

今週の朝日歌壇から(5月26日掲載・其の?・週末特報版)

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[永田和宏選]

(たつの市・藤原明朗)
〇  胸熱く発布記念のポスターを幼なら描きし憲法破るか

 かつて「障子破り」として名を馳せた老耄が、昨日は大阪の若い悪友と袂を分かつべく「分党の為の記者会見」など遣らかして、またぞろ、「憲法破り」「原発再稼働」与党の補完勢力下に馳せ参じるとか?
 それはそれとして、「憲法破るか」という五句目の表現の何と言うお粗末さよ!
 〔返〕  胸熱く発布記念のポスターを描きし君を無視する安倍か?


(香南市・中山昇喜)
〇  貧乏に慣れてゐますと言ひくれし君に決めた日憲法記念日

 安倍内閣の国会審議を経ない憲法解釈変更策にちゃっかり便乗して、過ぎし日の自らの求婚の次第を披歴しようとするとは、あまりにも身勝手過ぎましょう。
 〔返〕  戦争の稽古はするが本物の戦争反対自衛隊員
      誰よりも憲法九条大好きな自衛隊員参戦反対


(ホームレス・坪内政夫)
〇  遠くには班雪かがよう飯場にて庭に干されし地下タビ凍る

 そもそも住所を記すべきスペースに「ホームレス」という住所とも職業ともつかないカタカナ語を記すとは不届き千万、全く宜しくありませんが、詠い出しの五音を「遠くには」としているのは益々宜しくありません。
 このままでは、本作の意が「ホームレスを居住地とした作者が、寒さとは遠く隔絶した安全圏の『飯場』暮らしをしていて、ご酔狂にも『庭』に『地下タビ』を干したところ、何の因果かその『地下タビ』が凍みてしまった」ということにもなりかねません。
 朝日歌壇の「ホームレス贔屓」も、こと此処に至れば問題無しとせず。
 〔返〕  朝なさな氷柱輝く飯場にて地下タビ干せど凍ったままだ


(東京都・大村森美)
〇  陽炎の中から遍路あらはれてまた陽炎に白衣溶けゆく

 本作を仮に「陽炎の中からひょっこり現れてまた陽炎に溶け行く妻が」としたら、朝日歌壇の入選作というレベルの短歌作品と言い得ましょうか?
 ことほど然様に、作中の「遍路」という語の持つ働きは重大なのである。
 「短歌表見に於いては一語の使用も忽せに出来ず」なんちゃったりしたら、選者の永田和宏氏に笑われましょうか?
 〔返〕  夕焼けの最中ポストと出会ひしもまた夕焼けに染まりし昭和  


(大和郡山市・四方護)
〇  夢の中に傘を忘れて来たけれど傘はやっぱり玄関にある

 浄土宗鎮西派の総本山「知恩院(正式名称は華頂山知恩教院大谷寺)」の御影堂正面の軒裏には、骨ばかりとなった傘が見えます。
 この傘の由来に就いては、「当時の名工、左甚五郎が魔除けのために置いていった」という説と「知恩院第三十二世の雄誉霊巌上人が御影堂を建立するとき、この辺りに住んでいた白狐が、自分の棲居がなくなるので霊巌上人に新しい棲居をつくってほしいと依頼し、それが出来たお礼にこの傘を置いて知恩院を守ることを約束したという説」とが並立して伝えられていますが、いずれにしても、雨天の際に用いられるはずの傘が、雨漏りの心配の無い豪壮な建物の天井裏に見え隠れしていることは真に不可思議なことであり、恐らくは国宝級の木造建築物が不慮の火災に因って焼失することを危惧しての御まじないのようにも思われるのである。
 大和郡山市ご在住の四方護さんの御作を鑑賞せんと欲して、突如として私の胸中にこのような話が去来したのは、他でもなく、京都東山の知恩院の御影堂の軒裏に見え隠れしているこの傘の名称が「忘れ傘」とされていることに由来するのでありましょうか?
 そこで、本作の作者・四方護さんに私から申し上げますが、「傘というものは、飲んだくれた挙句にブラック企業との噂の高い飲み屋のカウンターの下に忘れて来たり、夢の中に忘れて来たりするものではなく、雨天の際に用いる為にご自宅の玄関に置くものだ」ということである。
 ということになりますと、この度の四方護さんの見た忘れ傘の夢は吉祥疑い無しであり、四方さんの御作は、来週も亦、朝日歌壇の入選作とは相成ること必定でありましょうか。
 〔返〕  床中にふんどし忘れて来た夢を見たのもはつか僧正遁世


(南相馬市・池田実)
〇  はらはらと浪江の土手に舞う桜しばし忘れる胸の線量計

 「はらはらと浪江の土手に舞う桜」という上の句の表現は近代短歌以前の月並み調である。
 その月並み調に少しぐらいは変化を与え、気弱で優しい性格の朝日歌壇の選者諸氏を騙くらかそうとして持ち出したのが「しばし忘れる胸の線量計」という、大幅な字余り句を伴った下の句であるが、果たしてその出来栄えや如何に?
 〔返〕  はらはらと浪江の土手で舞ふ奴と同じ桜か的屋の桜


(八王子市・坂本ひろ子)
〇  窓際の差額ベッドで見えたのは汚れたビルの裏窓ばかり

 わざわざ高額の「差額ベッド」代を支払ったのにも関わらず、「見えた」景色は「汚れたビルの裏窓ばかり」とは、全く以ってお気の毒様でした。
 でも、往年の名画「裏窓」みたいな素敵な出会いがこれからの貴女様の前に待ち構えているかも知れませんから、どうか失望なさらずに気楽に生き続けて下さいませ。
 〔返〕  望遠のレンズの奥に映るのはやーさん紛いの中年男


(坂戸市・山崎波浪)
〇  噴水の穂先が空に弾かれて弾かれて落ち街ははや夏

 「噴水の穂先」と言い、その「穂先が空に弾かれて弾かれて落ち」と言う。
 こうした新鮮な観察眼をお持ちであるが故に、掲歌の作者・山崎波浪さんは朝日歌壇入選者の常連中の常連としての、現在の輝かしき位置を勝ち得ることが出来たのでありましょうと、評者の私・鳥羽省三は、密かに埼玉県坂戸市の方角に憧れの眼差しを向けようとするのである。
 ところで、作者の山崎波浪さんは埼玉県の坂戸市内にお住いの方であるが、本作の題材となったのは、東京都内の噴水のある公園でご自身が実見なさった光景とした方が宜しいのかも知れません。
 つきましては、真に以って手前勝手ながら、作中の「街」を、埼玉県の坂戸市とは遠く隔たった東京のど真ん中、日比谷公園界隈とさせていただきます。
 色淡き銀杏並木と色濃き葉桜の中に藤の花と躑躅の花とが僅かに彩りを添えている晩春の午後の日比谷公園。
 公園内の「かもめの広場」の噴水の水は、日頃から射し貫こうとしても射し貫き得ない天空を、今日こそは是が非でも射し貫こうと意志して一斉に噴出するのであるが、敵は其の僻陬に幾片かの入道雲を浮かべたさすがの天空である。
 彼ら、「噴水の穂先」たちは、背伸びして背伸びして、一斉に天空を射し貫こうとするのであるが、その度ごとに「空に弾かれて弾かれて」脆くも地上に落下してしまうのである。
 そうした風景、即ち、噴水の水と上空の青空とが織り成す都会情緒たっぷりの風景を見上げるのは、今朝の始発の東武東上線で手弁当を引っ提げて上京し、池袋駅から幾本かの地下鉄電車を乗り継ぎ、名にし負う「東京スカイツリー」の展望台に昇った後、事の序でにと、都心まで足を延ばして皇居界隈及び日比谷公園を見ようと欲張った、本作の作者・山崎波浪さんである。
 日比谷公園の「かもめの広場」の噴水の水は、埼玉県民が東京を志すが如く、日頃から果てし無き天空を志していて、今日こそはあの憧れの天空を刺そうと意志して、何度も何度も噴出するのであるが、その度ごとに、神の意思に阻まれるのでありましょうか、脆くも地上に落下して、水蒸気となって初めて初志を貫徹するのである。
 かくして、天空を志す噴水の水の意志と、それを阻もうとする天空との爽やかな格闘劇が展開される中で、日比谷の街にも夏という季節が訪れるのである。
 〔返〕 あな不思議?坂戸市内に千代田在り!千枚田でも在ったのかしら?


(横浜市・森秀人)
〇  「方丈記」「徒然草」を読み直したやっぱり著者には会いたくないな
 
 まこと然り。
 かつて「徒然草」の注釈書を上梓した経験を持つ私でさえも、あの鹿爪らしい顔をして講釈を垂れるような輩とは金輪際「会いたく」はありません。
 〔返〕  佳き歌は少しく鈍き者の詠む少しく鈍き変な歌なり


(東京都・上田結香)
〇  菖蒲園に行ったのですが「亀!亀!]と連れは大はしゃぎ風情どころでは

 「連れは」としたところが最大のウリの俗っ気たっぷりの作品として鑑賞させていただきました。
 でも、一見すると、大幅な字余り作品のように思われるのですが、音読してみると、それなりのリズム感(内在律)が感じられ、さすがに上田結香さんの御作と思われます。
 〔返〕  競馬場に行ったのですが連れ合いが「当てる!当てる!」と言ってたわりには当てれなかった

 何方か、御奇特な方が居られましたら、上掲返歌中の「当てれなかった」というところを誉めてやって下さい。

今週の朝日歌壇から(5月26日掲載・其の?)

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[馬場あき子選]

(青梅市・津田洋行)
〇  おお河馬よまるごとキャベツを口に入れがぶりと噛んだ春の力は

 末尾の「春の力は」がよく分りません。
 「春の力」とは、或いは、「作中の『河馬』が交合期(生殖期)に入っている」ことを指して言うのでありましょうか?
 俳句に「猫の恋」という季語が在るということですが、「河馬の恋」という季語は在るのでしょうか?
 〔返〕  2トン余の身体に身体が重なって波風立てる河馬の交合


(三島市・浅野和子)
〇  地雷掘り義足を作りし友も逝き五月闇濃く今日よりはじまる

 五句目に「今日よりはじまる」とありますが、一体全体、どんなことが「今日よりはじまる」のでありましょうか?
 という具合に、一首全体、文意不明の作品であるので、悪意を以ってすれば、次のような滑稽な滑稽な解釈だって成り立つのである。
 即ち「本作の作者・浅野和子(秋田民謡の歌手なのかしら?)さんには、かつて戦地で『地雷を掘り』、掘ったその『地雷』の地金である真鍮を加工して『義足』を作って暮らしの足しにしていたような器用貧乏の『友』がいたのであるが、ある年の晩春に、その『友』が亡くなってしまい、その忌日を起源として、作者にとっての『五月闇』の季節が始まったのである」と。
 この持って回った文章を読んだ諸氏は、筆者の私・鳥羽省三のことを笑ったり軽蔑したりするに違いありませんが、このような文意不明の作品が朝日歌壇の入選作だとしたら、あなた方歌詠みは、決して私のことを笑ったり軽蔑したりしてばかりは居られません。
 笑われるべき主体、軽蔑されるべき主体は、私・鳥羽省三ではなく、本作の作者・浅野和子さんであり、本作を入選作とした、選者の馬場あき子先生なのである。
 ところで、今日は五月の三十一日、明日からはいよいよ六月が始まりますよ!
 本格的な「五月闇」というべき季節は、いよいよ明日から始まるのである。
 〔返〕  地雷にて脚失ひし友の逝き吾の季節は五月闇のみ


(東京都・無京水彦)
〇  新緑のベンチに手話のふたりいて花より静かなほほえみかわす

 「新緑のベンチ」にて「手話」で以って語り合う「ふたり」の姿を目にして、「花より静かなほほえみかわす」と受け取る無京水彦さんこそは、真に以って善意に溢れた歌詠みである。
 〔返〕  新緑のベンチに世話好き婆が居て「ああだ!こうだ!」と講釈垂れる
 と、まあ、私・鳥羽省三は、無京水彦さんとは異なり、まるで善意の感じられないような返歌を詠んでみたのである。


(延岡市・河野正)
〇  重力のなき宇宙でも変態を遂ぐる昆虫ネムリユスリカ

 インターネットで検索してみると、作中に登場する「ネムリユスリカ」という「昆虫」に関する情報が「飛んで火に入る夏の虫」のように飛び込んで来る。
 それらの中から、私の目前に真っ先に飛び込んで来た情報、即ち「ネムリユスリカの幼虫、宇宙で生き返る/若田光一さんが実験成功」というタイトルの記事をそのまま転載してみると、その内容は、次の通りである。

 即ち、「カラカラに乾燥しても、水を与えることで生き返ることで知られる『ネムリユスリカ』の幼虫が、宇宙空間でも生き返った。国際宇宙ステーション(ISS)で船長を務める宇宙飛行士の若田光一さんが、日本実験棟『きぼう』で実験に成功したと日本とロシアの共同研究チームが4月15日に発表した。/ネムリユスリカはアフリカの半乾燥地帯に生息する昆虫。全長8ミリほどの幼虫は普段は水中で暮らすが、完全な乾燥状態になっても水を与えると約1時間で復活する。これは微生物の「クマムシ」などと同じくクリプトビオシスという性質で、昆虫ではネムリユスリカの幼虫が唯一持っているという。/今回、宇宙環境でも乾燥に耐えるかを調査した結果、乾燥状態のネムリユスリカの幼虫100匹のほとんどが、水を与えると宇宙でも活動を始め、2週間後には7匹がさなぎとなり、そのうち1匹が成虫になった。乾燥状態から蘇生した幼虫が、さなぎや成虫になったことが確認されたのは今回が初めて。/研究チームのメンバーである農業生物資源研究所の奥田隆・上級研究員は、以下のように話しているという。『乾燥させた幼虫は宇宙に運びやすく、扱いも簡単。宇宙基地で魚を養殖する際に、生き餌として利用できるかもしれない。』」
 
 察するに、宮崎県延岡市にお住いの河野正さんは、「ネムリユスリカ」に関しての新聞やテレビから得た情報、或いはインターネットを検索して得た情報に基づいて上掲の一首を詠んだのでありましょう。
 科学的な知識に基づいて詠んだ作品の欠点は、ともすれば、作者が博識ぶりをひけらかしているものと見られがちなことであり、本作にも多分にそうした傾向が認められる。
 本作が一首の短歌として成立し、読者に大きな感動を与えることが出来るか否かの境目は、私たち読者が、作品の題材となっている知識ないし情報を得た時の感激をこの一首の表現から読み取ることが出来るか否かという点に関わっているのであり、その責任の多くは、読者側よりも作者側に在るものと思われるのである。
 〔返〕  重力の在ると無きとに関わらず只ひたすらに変節して行く吾


(茨木市・三田村宏)
〇  公園の池の真中の島に上がる亀のすべては外来種なる


(富山市・松田わこ)
〇  何もかも新しくなる春が来て規律委員に立候補する

(新潟県・涌井武徳)
〇  のっしりと雪まだ残るぶな林やばを目指して春マタギ行く


(笠間市・北沢錨)
〇  草を引き畑に牛蒡の種を蒔く空静かなり我しづかなり


(塩釜市・佐藤龍二)
〇  昼過ぎの検査室棟静かなり蝉時雨さへ届かぬところ

  俳句とは異なり、短歌には「当期雑詠でなければならない」といったような規則はありませんが、今現在の季節が晩春であるだけに、下の句に「蝉しぐれさえ届かぬところ」とあるのは少し気になります。
 あるいは、過去の夏の日に詠んだ作品を投稿し、それが選者の御眼鏡に適って入選したのでありましょうか?
 〔返〕  昼過ぎの実験室棟静かなりSTAP細胞捏造疑惑


(平塚市・三井せつ子)
〇  新品の自転車の螺子の締め直し済みて春陽の道に出でたり

 如何なる理由で以って「新品の自転車の螺子」を「締め直し」しなければならなかったのか?
 掲歌の作者・三井せつ子さんは「専門知識を持った、昔風の職人の居る、町の自転車さんから買った自転車と違って、例えば、平塚のダイクマなど量販店から買った自転車は、商品知識の無いパートタイマー店員やアルバイト店員、或いは正式な社員店員であっても薄給を嘆いているような店員が多いので、その多くはブレーキの螺子の閉め忘れなど、人身事故に繋がるような不良品が多いので、新品と言えども螺子の締め直しなど車体点検を行ってからでないと絶対にのってはいけない」といったような「石橋を叩いてもなお渡らない」といった慎重ないしは臆病ないしは神経質な性格の持ち主であったのか?
 それはともかくとして、「新品の自転車の螺子の締め直し」が済んだ後のすっきりした気持ちで、「春陽の道」を飛ばす時の三井せつ子さんのご気分のほどは、三井せつ子さん以上に物事に拘る傾向の強い、私としてはよく解ります。
 〔返〕  春風は花水川の向うからベルを鳴らして紅谷町まで

今週の朝日歌壇から(6月2日掲載・其の?・)

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[馬場あき子選]

(八千代市・砂川壮一)
〇  見られても見られなくても踏まれても踏まれなくても片喰みの花

(広島市・熊谷純)
〇  卓上で母の眼鏡がしつかりと父の眼鏡を見据ゑる夜更け

(塩釜市・佐藤龍二)
〇  緬羊の頭の向きはばらばらに野一面の緑なりけり

(アメリカ・中條喜美子)
〇  パチパチとボウルの水吸い音たてて初夏の厨に目覚める大豆

(横浜市・高橋理沙子)
〇  祖母ちゃんに教えてもらった柏餅野山のかおりほんのりとして

(横須賀市・梅田悦子)
〇  その背に兵士立たしめ原潜は原子炉一基抱えて入り来

(埼玉県・酒井忠正)
〇  防護服きて除草剤畦にまく化学部隊の兵士のやうに

(橿原市・福田示知恵)
〇  ロボットのメンテナンスは人が負う廃炉作業の深き下闇

(福島市・美原凍子)
〇  ほろほろと木通の花のこぼれいて空き家はずっと空き家のまんま

(高松市・菰渕昭)
〇  指をもて梳りつつ女生徒ら青信号を待つ初夏の朝

今週の朝日歌壇から(6月2日掲載・其の?・)

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[佐佐木幸綱選]

(仙台市・吉川明宏)
〇  春の陽に現幻ぼやけゆくあの時ここは戦場だった

(南相馬市・池田実)
〇  福島に手当求めて流れ着く作業員という我らも難民

(大阪市・石橋佳世子)
〇  応援は励ましではなく祈りだと叫ぶカープが負けないように  

(神戸市・高寺美穂子)
〇  卯の花の香る垣根の向こう側一年生が外を見ている

(福岡市・森清司)
〇  ようやくにして息子の許に身をおくも行き交う人の知る顔もなし

(西宮市・室文子)
〇  レモン色のトートバックはバースデーにパパと選んだママへの感謝

(新座市・草野聖子)
〇  エンジン音止みて向き合う漆黒のメコンの岸辺螢瞬く

(大阪市・渡辺たかき)
〇  文法じゃないと知りつつ文法で紫の上を語るはがゆさ

(神奈川県・九螺さらら)
〇  音読をすると言霊踊り出し黙読すれば脳を漂ふ

(久喜市・白石由紀)
〇  わが歌の選ばれし朝目に染みるまな板の白キャベツの緑
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